糸玉BBS はてな村支部

文芸サークル〈絲の太陽たち〉の活動報告ブログ

偶像

寝室でコバエが落ちはじめた

家主が餌を与えるのを躊躇いだしたから

シーリングライトを踏んで輕快にポンピングし

気ままな王族として君臨していた彼らの栄華は徐々に翳りを帯び

壁面に付着した壁のシミの一点として振る舞う礼節を学んだ

老齢の哲学者としての黙考に耽り

ときたま慰めに加藤登紀子の百万本のバラを口ずさんだ

長い口吻からこぼれるのは貴女に捧げるためのべにばらの花束

彼らの飢えと餓えが昂進すると

不揃いだった歌は合唱として立ち上がりだし

やがてクローゼットの木目にそって並んだ数千数万のハエたちが

割れんばかりの大音声でがなりだした

真っ赤な真っ赤なばら色の指さすあかつきに

一小節歌うごとに臣下は力尽きて落下し

渇いたさんごすなのカラカラした虹色の翅が床に軽く積もってゆく

窓のない室内に吹きこんだ熱情

ハエたちはその最晩年にはがらりと趣旨を変えてアイドルに耽溺し

なかでも指原莉乃をこよなく愛した

死にゆく王の抱くそれは握手券つきCD

糞の付着した足跡べとつく紙切れの祝福

今際のきわに王はうめく「またとない」

そのすべては朝まだきに生まれ指ばら色の女神たちのために